漢方薬は生薬から成り立っています。生薬とは自然界に存在する植物や動物、鉱物由来のもので、古代から経験的に薬能のあるものとして認識されたものを指します。例えば、生姜はショウガ、陳皮はミカンの皮、山椒はサンショウ、桂枝はシナモンの一種、山薬はヤマイモです。これらは普通に我々の食事の中でも使用されている食材ですよね。
漢方薬とは、何らかの良い影響を及ぼすことを目的に、こうした生薬を組み合わせたものです。例えば、「芍薬」と「甘草」という2つの生薬を混合することで「芍薬甘草湯(しゃきゃくかんぞうとう)」と呼ばれる漢方薬が出来上がります。芍薬は筋肉のけいれんや種々の疼痛に用いられ、甘草は身体の水分が損なわれたときにそれを回復させるために選択される生薬です。この両者を組み合わせた理由は「汗をかくなどして体が渇いた結果もたらされる手足のつりに用いよう」ということです。例えば、夏の暑い時期に運動をしたら汗をたくさんかいた→その後に足がつったので芍薬甘草湯で治そう、ということです。
漢方は、中国の漢から伝わった伝統医学が元になり、日本の風土や環境、日本人の体質や気質に合わせて独自に発展した伝統医学です。漢方には、お湯を使って元の生薬を煎じて作る「煎じ薬」と、エキスとして製造されている「エキス製剤」があります。漢方はもともとは煎じ薬だけでしたが、1950年代からエキス製剤が製造されるようになりました。エキス製剤は、生薬の組み合わせや配分について長年検証されてきた結果です。
たとえば、『芍薬甘草湯を考案し、実際に試してみたら効果があった。だから次回からも同じような病態に用いてみよう』ということになり、繰り返し使用され効果が検証されていきました。効果があり副作用が起こりにくい配分比率(芍薬甘草湯の場合、最終的には芍薬と甘草は重量比で1:1)が決まることになります。
漢方薬と呼ばれているものは、すべて2つ以上の生薬を組み合わせた複合剤です。多くの組み合わせトライアルの結果、治療の役に立つものだけが残り、長い年月をかけて優秀なセットだけが伝えられてきました。
現在では、148種類の漢方薬がエキス製剤として医療で使用されています。
漢方独特の考え方「気・血・水」
西洋医学では、体を心臓、肺、腎臓、肝臓といった臓器ごとに分けて考え、治療します。一方、漢方薬を用いる医学では臓器とは別の概念があります。「気・血・水」と呼ばれるものです。
「気・血・水」は人体を構成する要素で、「気」は体を循環するエネルギーであり生命活動を営む根源、「血」は組織に栄養を運ぶ赤色の液体、「水」は身体を潤す作用がある血液以外の無色な液体です。
体が健康に維持されるためには「気・血・水」の働きが充実している必要があり、「気・血・水」のバランスが崩れることで、様々な症状を引きおこすと考えられています。たとえば、倦怠感があるまたは食欲がないという症状は、エネルギー不足であり「気」が不足していると考えられます。逆に、のぼせや頭痛といった症状は、「気」が多すぎると考えられます。貧血は「血」が不足していて、発熱は「血」が熱を持っている、咳は「水」が足りない、痰は「水」が多すぎるという考え方です。
漢方薬はこれらのバランスの乱れを正常に戻すという考えのもとで処方されます。「気」の不足がみられる倦怠感があるまたは食欲がない方に対しては、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬を処方することがあります。補中益気湯は、「中(体の内側)を補い気を増やす」という意味で名付けられました。漢方薬の名前はその効果を表すものが多いので、名前からどういう効果があるのか考えてみるのも面白いですね。