慢性腎臓病は、放置するとどんどん病気が進行し人工透析が必要となります。その段階になると、心血管疾患などの合併症のリスクが高まります。そのため病気を悪化させずに進行を遅らせることが大切です。慢性腎臓病を悪化させないポイントを以下の4点から解説します。
高血圧や尿たんぱくの状態になることは、慢性腎臓病が悪化する明らかな危険因子になります。そのため、これらを予防するための食事としてカギとなるのが、「食塩」と「たんぱく質」を取り過ぎないことです。
塩分の1日あたりの摂取量の目安は6 g未満です。これをオーバーしないことが重要です。たんぱく質の制限の基準は慢性腎臓病の進行ステージによって変わります。ステージ別のたんぱく質摂取量の基準は、ステージG3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日,G3b以降:0.6~0.8 g/kg標準体重/日)で、ステージG1~G2 でも、過剰なたんぱく質摂取を避けることが推奨されています。
ただし、食塩とたんぱく質は、ともにほとんど全くとらないなど過剰に抑えてしまうと、特に高齢者で低栄養状態になります。たんぱく質は状態によって異なりますので、医師や管理栄養士に相談しましょう。
慢性腎臓病が進行し始めると、血液中のカリウムやリンが過剰になる「高カリウム血症」や「高リン血症」という状態になることが多くあり、これらは慢性腎臓病がさらに悪化するリスクとなります。そのためカリウムやリンの摂取量も抑える必要があります。
ステージG1~G3aまではカリウムの制限はなく、ステージG3bでは2,000 mg/日以下、G4~G5では1,500 mg/日以下を目標とします。リンの摂取量はたんぱく質の摂取量に大きく影響を受けますので、ステージごとのたんぱく質摂取の制限とともに、リンの摂取を制限していきます。
肥満やメタボリックシンドロームは、慢性腎臓病が進行する危険因子の可能性があります。これらは高血圧の原因でもあることから食事量にも注意が必要です。食事の総エネルギー量は症状や検査の状況などによって多少変動しますが、おおむね「25~35 kcal/kg 標準体重/日」が基準とされています。
肥満やメタボリックシンドロームの方では、継続的な運動が望まれますので、どの運動の種類が良いかというよりも習慣にできる運動の種類を患者さんが選んで日々行うことが大切です。どのような運動の強度や運動量が良いのかというのは患者さんの年齢や状況によって異なりますので、医師や理学療養士による指導を受けるのが良いでしょう。
慢性腎臓病が進行すると貧血状態になります。この貧血を治療することは、やがて発展する心筋梗塞や心不全による入院、脳卒中のリスクを抑えることになりますので、慢性腎臓病からの状態悪化を防ぐために貧血を薬物療法で治療することが重要です。
慢性腎臓病の進行による貧血は「腎性貧血」と呼ばれます。腎性貧血の治療では、これまで注射剤として「赤血球造血刺激因子製剤」という注射(エポエチンアルファ、エポエチンベータなど)が使用されてきましたが、2019年から「HIF-PH阻害薬」という新しいタイプの薬も登場しました。この薬のメカニズムはノーベル賞を受賞したテーマでもあり、心血管疾患の予防も期待される画期的な薬です。ただし、がんの方や血栓塞栓症の心配がある方など使用に注意が必要な方もいます。
慢性腎臓病の方で高血圧がずっと続いていることは、動脈硬化や心筋梗塞など心血管疾患の発症リスクになります。逆に言えば、血圧を下げるというのはこうした病気の発症リスクを抑えることになります。
高血圧の治療薬は、「ACE阻害薬」「ARB」「Ca拮抗薬」などですが、ステージや糖尿病があるかどうか、年齢が75歳以上かどうかによって選択が変わります。専門医が処方する適切な薬剤を服用することが重要です。
このほか、飲酒や喫煙は控え、疲れやストレスをためないといった生活習慣も重要です。飲酒、喫煙、疲労、ストレスなどは全て高血圧のリスクになります。
高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は、動脈硬化を引き起こし、慢性腎臓病の進行につながります。もし健康診断などで「要治療」などと指摘されているようでしたら、医師に相談し、食事・運動・生活療法と必要でしたら薬物療法を行い、しっかりコントロールするように心がけましょう。生活習慣病を治療することで、慢性腎臓病の進行を抑えることが可能です。
慢性腎臓病は進行してから治療に取り組んでも元の機能を取り戻すことができない病気です。慢性腎臓病が進行すればやがて腎不全になります。末期の腎不全は命に関わる状態で、心臓や脳血管の病気も起こりやすくなります。慢性腎臓病を悪化させない取り組みの実施が重要です。