慢性腎臓病のほとんどは中年期以降に生活習慣が原因となっている生活習慣病です。そのため、薬による治療だけでなく生活習慣に気を付けることが大切で、食事療法はその中でも重要なひとつです。慢性腎臓病の食事を考えるうえでポイントとなるのは1. エネルギー(カロリー)、2. たんぱく質、3. 食塩、4. カリウム、5. リンの5つです。
飲食でとるべきエネルギー量は,性別や年齢,身体の活動レベル、症状や検査の状況などによって多少変動しますが、おおむね「25~35 kcal/kg 標準体重/日」が基準とされています。
標準体重=身長(m)×身長(m)×22ですので、身長が170cmの標準体重は約63.6kgです。これを上の表にあてはめると、25×63.6~35×63.6=1590~2226ですので、おおよそ1600~2200カロリーを1日に摂取すると良いということになります。
慢性腎臓病の進行を抑制するためには、たんぱく質の摂取量を制限することが推奨されています。制限の基準は慢性腎臓病の進行ステージによって変わります。ステージ別のたんぱく質摂取量の基準は、ステージG3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日,G3b以降:0.6~0.8 g/kg標準体重/日)とされています。身長が170cmの標準体重63.6kgで計算すると、51~64gが1日のたんぱく質の摂取目安です。ステージG1~G2 でも、過剰なたんぱく質摂取を避けることが推奨されています。
ただし、高齢者ではたんぱく質摂取制限に伴って低栄養状態となり、日常生活や健康寿命を悪影響を及ぼすことになるというリスクも考えられますので、一定のたんぱく質の摂取は確保すべきといわれています。たんぱく質をどれくらい摂取すべきかというのは、個々の患者さんの年齢や体の状況によって異なりますので、腎臓の専門医や管理栄養士などの指導を受けることが望ましいです。
慢性腎臓病では、高血圧や尿たんぱくなどを抑制することが必要となり、これには塩分摂取を抑えることが有効と多くの研究で証明されています。ですので、慢性腎臓病の方では基本的に塩分の制限が必須とされています。1日あたりの塩分摂取量の目安は6 g未満です。塩分と水分はセットでとりすぎることが多いのでその点に注意して制限していきます。
ただし,慢性腎臓病の方が過度に減塩すると、腎臓の機能(糸球体ろ過の機能)を急激に低下させる可能性があります。そのため、塩分を全くとらないというのも問題になります。
目安は1日3 g前後となりますが、医師や管理栄養士に確認しましょう。
慢性腎臓病の進行が進むと、血液の中のカリウムの割合が高くなってしまう「高カリウム血症」という病態になることがよくあります。そのため、ステージが進行してからはカリウムを抑える必要も出てきます。ステージG1~G3aまではカリウムの制限はありません。ステージG3bでは2,000 mg/日以下、G4~G5では1,500 mg/日以下を目標とします。
高カリウム血症は、慢性腎臓病が進行して腎臓の機能が悪化するだけでなく、薬剤の副作用、心不全や糖尿病などの合併症といった要素が関連しています。また、たんぱく質を制限することでカリウムも制限されることになるため、単純にカリウムの多い食事をやめればいいというものでもなく、医師や栄養士の指導に従うことが重要となります。
慢性腎臓病の方は、尿としてリンを排出することができなくなり、血液の中にリンが多く蓄積されてしまい、やがて「高リン血症」という病態になるケースが多くあります。高リン血症になってしまうと腎機能がさらに低下し、心筋梗塞などの心臓病のリスクも上がります。こうしたことから、慢性腎臓病の方では、リンの摂取に気をつける必要があります。リンを多く含む食品は、ハムやベーコン、練り物、プロセスチーズ、インスタント麺、缶詰、ファストフードなどで、これらの添加物としてリンが含まれますので摂取量に注意が必要です。
このほか、健康食やサプリメントについての疑問も多くあると思います。慢性腎臓病では、カリウムなどが蓄積することによるリスク、身体の運動機能が低下してしまう「サルコペニア」や「フレイル」などになるリスクがあります。一般的に健康に良いといわれる食品が常に有益であるとは限りません。これまで、いわゆる健康食(植物主体の食事、野菜・果物、豆、魚の多い食事、地中海食)や、大豆たんぱく質、食物繊維などについて検討されてきましたが、十分なエビデンスはありません。安全面から、現状では少なくとも腎臓専門医や専門医療機関、管理栄養士の管理がない状態で特定の食事パターンを行い、サプリメントを使用することは避けたほうが良いと考えられます。