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慢性腎臓病の治療② 薬物療法

薬物療法

残念ながら、今のところ慢性腎臓病を治す特効薬はありません。
しかし、降圧薬・リン吸着薬・カリウム吸着薬・利尿剤などのお薬を使って、慢性腎臓病の原因となっている病気の治療や現れる症状を軽くしたり、慢性腎臓病の進行や合併症を予防したりすることは可能です。
患者さんの血圧・血糖レベル・合併症の有無など総合的に判断して、組み合わせて使用します。

腎臓を守り血圧を下げる薬(降圧剤)……

糖尿病の合併がある方・軽度たんぱく尿を認める方の第一選択薬
降圧剤の中には、尿たんぱくを減らす効果のある薬があります。

  • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
    アジルバ®、オルメテック®、ブロプレス®など
    ※妊娠中の使用は不可。ACE阻害薬よりも副作用が少ないです。
  • ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)
    レニベース®、タナトリル®など

※妊娠中の使用は不可。
慢性腎臓病では血圧管理が非常に重要です。進行を遅らせるためには血圧を130/80mmHg以下に管理する(可能であれば、さらに下げる)ことが必要となります。

RAS阻害薬(ARB、ACE阻害薬)はすべてのCKDステージで投薬できますが、CKDステージG4・G5・高齢者の場合には投薬開始時に腎機能の悪化や高カリウム血症が起こる可能性もあるので、少量から開始します。

慢性腎炎に対する治療

ネフローゼ症候群・IgA腎症などたんぱく尿が多くみられる糸球体腎炎には、抗炎症作用のあるお薬を使用します。

  • 副腎皮質ステロイド
    プレドニン®など

ほかにも、たんぱく尿の減少効果がある「抗血小板薬」を使用することがあります。

腎性貧血に対する治療

血液は、骨髄内の細胞が腎臓から分泌されるホルモン(エリスロポエチン)の刺激を受けて作られています。しかし、慢性腎臓病が進行すると、このホルモンが分泌されにくくなるため、血液が十分に作られず貧血になります(腎性貧血)。
貧血が進行すると、倦怠感や心臓への負担大を引き起こします。また、貧血状態は腎機能の低下を進行させたり、心不全を悪化させたりする原因にもなります。腎性貧血の治療には、エリスロポエチンの不足を補う注射薬やエリスロポエチン産生を促す内服薬を使用します。
注射薬は1~2週間に1回投与となりますが、最近は月1回の注射で効果が持続するタイプも登場しています。CKD診療ガイド2012では血中ヘモグロビン濃度を10~12g/dlに保つよう推奨しています。 

  • ESA製剤……第一選択薬
    エスポー®・エポジン®・ネスプ®・ミルセラ®(注射薬)、ダーブロック®・エ
    ベレンゾ®(内服薬)など

老廃物を排出する機能を助ける薬

腎機能が低下すると、血液中の老廃物が体内に溜まってしまい最悪生命の危険がある「尿毒症」を引き起こします。経口吸着炭素製剤は、原因となる尿毒症毒素を腸内で吸着して便とともに排泄させるお薬で、腎機能の低下を抑えます。

  • 経口吸着炭素製剤
    クレメジン®(カプセル・細粒・速崩錠)など
    ※毒素以外にも同時に服用した薬を吸着する可能性があるため、他の薬を服用する際には30~60分以上ずらしましょう。それゆえ、飲み忘れやすいので注意が必要です。

体液量・イオンバランス調節を助ける薬

腎機能が低下すると、カリウムやリンの排泄も低下します。
カリウムが排泄されにくくなると、不整脈をきたして突然死の原因となることがある「高カリウム血症」を引き起こします。腸内でカリウムを吸着して便と共に排泄させる「カリウム吸着薬」を使用します。
また、同様にリンが排泄されにくくなると、低カルシウム血症や副甲状腺ホルモンが過剰分泌をきたす「高リン血症」を引き起こします。食物中のリンにくっついて吸収されずに便排泄させる「リン吸着薬」を使用します。

  • カリウム吸着薬
    ケイキサレート®、カリメート®、アーガメイトゼリー®(ゼリー状)など
    ※副作用として、便秘になりやすいことがあります。なお、アーガメイトゼリーには便秘予防成分も含まれています。
  • リン吸着薬
    沈降炭酸カルシウム®、カルタン®、ホスレノール®、リオナ®、キックリン®など

※沈降炭酸カルシウム・カルタン・ホスレノール・リオナなどの薬は、食直後(食事後5分以内)の服用です。ただし、キックリン®はこれまでのリン吸着薬とは異なる非吸収性リン吸着薬で、食直前(食事を摂る5分前くらい)に服用となります。カルシウムや鉄などの金属を含まないので、カルシウム血症や金
属の組織沈着などの心配がありません。

骨を作る機能を助ける薬

骨の発育には様々な臓器が関わっていますが、腎臓もカルシウム吸収に必要な活性型ビタミンDを作っています。ところが、腎機能が低下してくると、ビタミンDの活性化ができなくなる上、さらに血清リン値の上昇を防ごうと、のどから副甲状腺ホルモン(PRH)が活発に分泌されるようになります。すると、骨代謝(骨を壊して新しい骨を作る「骨の新陳代謝」)の回転が高まり、骨がもろくなります。

また、骨の変化だけでなく、影響は全身に及び血管石灰化を生じさせ、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞などの命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。

  • 活性型ビタミンD製剤……PTH分泌を抑制する
    エディロール®・カルフィーナ®・ロカルトロール®(内服薬)、アルファロール®(内用液:液体の薬)

ほかにも、カルシウム受容体作動薬(レグパラ®など)やリン吸着剤、炭酸カルシウム製剤」などを使用することがあります。

むくみを取る薬

慢性腎臓病が進行してくると、尿で排出できなくなるため体中に水分が貯留してきて「むくみ」が出てきます。むくみを取るには食事による塩分制限のほか、尿を強制的に出す「利尿剤」を使用することがあります

  • 利尿剤
    ループ利尿薬:ラシックス®、ルプラック®など
    サイアザイド系利尿薬:フルイトラン®、ナトリックス®など

※患者さんの状況に応じて、利尿剤の中でも作用機序の違うお薬を併用することがあります。

酸性に傾いた血液を弱アルカリ性に戻す薬

人間の体は弱アルカリ性(ph7.4程度)に保たれています。しかし、腎機能の働きが悪くなると、酸性に傾きます(≒アシドーシス)。アシドーシス状態になると、骨がもろくなったり、栄養状態が悪化したりします。また、アシドーシス状態も腎機能低下に影響を及ぼすとされています。弱アルカリ性に戻すために「重炭酸ナトリウム(重曹)」を使用します。
なお、自己判断で薬を中止したり、減量したりすることは大変危険です。近年は配合薬も登場しています。内服薬が多い方、また薬で気になる点がある方は、医師またはスタッフまでお気軽ご相談ください。

記事執筆者

きむら内科小児科クリニック

院長 木村仁志

資格
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本腎臓学会腎臓専門医
  • 日本透析医学会透析専門医
  • なごや認知症安心安全プロジェクトもの忘れ相談医(登録かかりつけ医)
  • 日本ACLS協会 BLSヘルスケアプロバイダーコース修了(平成27年7月)
  • がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了(平成27年9月)
  • こどものみかた小児T&Aコース修了(平成27年10月)
  • かかりつけ医認知症対応力向上研修終了(平成28年11月)
  • かかりつけ医等心の健康対応力向上研修終了(平成28年11月)
所属学会
  • 日本内科学会
  • 日本腎臓学会
  • 日本透析医学会
  • 日本プライマリケア連合学会
  • 日本抗加齢医学会