腎臓には糸球体という毛細血管が集まった球形の構造体があります。糸球体内の血管は特殊な構造をしていて、小さな穴が空いており、そこから血管内の水分や老廃物が血管外にこしだされ、それが尿のもとになります。
正常な腎臓では老廃物や水分のみがこしだされ、蛋白はその穴よりも大きいためにすり抜けることができず、血管の外に漏れることはありません。しかし、ネフローゼ症候群では、その血管の穴の部分が壊れてしまい、蛋白質が血管から尿のほうへ漏れてしまうために血液中の蛋白質が低下してしまいます。
血管の穴の部分が壊れてしまう原因は、実はまだ解明されていません。ただ、ネフローゼ症候群の治療として使用されるステロイドや免疫抑制薬は免疫を抑える薬剤です。また風邪や虫刺されをきっかけにネフローゼ症候群が再発することから、体の免疫が関係しているのではないかと言われています。
また、ネフローゼ症候群は、時として家族内で2名以上の方で発症することから、何らかの遺伝的な要素がネフローゼ症候群の発症に関わっている可能性も高いと考えられています。ネフローゼ症候群の発症の原因となり得る遺伝子は60種類以上も発見されています。ただし、はっきりしたことはまだわかっていません。今後、原因・病態解明がなされれば、根本治療につながる可能性が高いため、今後の研究の発展が期待されています。
尿検査と血液検査を行い、基準以上の蛋白尿と基準以下の血液中の蛋白濃度(蛋白の一種であるアルブミンも計測します)の二つよりネフローゼ症候群と診断します。さらに、臨床症状、経過なども合わせて「特発性(真の原因が不明の)ネフローゼ症候群」、「続発性(糸球体腎炎などの腎臓の病気が先に起こっている)ネフローゼ症候群」のどちらがより考えられるか判断します。
特発性ネフローゼ症候群では、原則としてネフローゼ症候群が起こる前の特徴や症状などがほとんどありません。一方、続発性ネフローゼ症候群では、1歳未満の低年齢の発症、血尿、腎機能障害、高血圧、血液検査で補体という項目の低下、皮疹・発熱などの腎外症状、といったことが、尿検査と血液検査でネフローゼ症候群と疑われる前に起こります。
小児ネフローゼ症候群の診断基準は、
➀高度蛋白尿(夜間蓄尿で 40mg/hr/m2以上)又は早朝尿で尿蛋白クレアチニン比 2.0g/gCr以上が持続
②低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)
を認める
とされています。
ネフローゼ症候群は、特発性なのか続発性なのかによって治療の種類や期間が異なりますので、先天性ネフローゼ症候群や慢性糸球体腎炎による「続発性」のネフローゼ症候群を疑うべき所見があるときには、必ず腎生検を行い、診断を確定した後に治療を開始します。
「特発性」のネフローゼ症候群が疑われる場合は、その多くが「微小変化型」であり、ステロイドがよく効くことが分かっています。小児の特発性ネフローゼ症候群は、ステロイドを使うことで80~90%は完全寛解(症状や検査での異常が見られなくなり、正常な機能が回復した状態)となります。そのため、腎生検は初めから行わず、ステロイドの治療を開始します。一般的に1週間程度で蛋白尿が陰性化すれば「特発性」と診断してよいことになっています。
一方、一部の特発性ネフローゼ症候群(特発性ネフローゼ症候群の10~20%)では、ステロイドを使っても良くなりません。4週間の連日のステロイド治療を行っても、蛋白尿が持続する場合は、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群と定義され、腎生検で組織所見を確認し、次の治療を選択します。