ネフローゼ症候群とは、タンパク質が尿中に大量に漏れ出て、血液中の蛋白質の濃度が低下し、その結果尿の量が減り、体がむくむ病気のことです。
小児のネフローゼ症候群は、小児慢性腎疾患の中で最も頻度の高い難病です。というのも、医学的には、原因によらず、ある共通の症状や状態がそろっている状態を「〇〇〇症候群」と呼ぶため、ネフローゼ症候群も単一の病気を指しているわけではなく、その原因となる腎臓の病気は多岐にわたります。
①高度の蛋白尿、②血液中の蛋白質濃度の低下という診断基準を満たしている腎臓の病気であれば、全て「ネフローゼ症候群」と定義されます。皆さんご存知の糖尿病でも合併症でネフローゼ症候群を引き起こすことがあります。ネフローゼ症候群は原因により以下のように三つに分類されます。
・特発性(原発性)ネフローゼ症候群:真の原因が不明
・続発性(二次性)ネフローゼ症候群:糸球体腎炎などの腎臓の病気により前述の①②の状態を満たすタイプ
・先天性ネフローゼ症候群:生まれつき遺伝子に異常があって、生まれた直後から蛋白尿が出現するタイプ
小児では、「特発性ネフローゼ症候群」が最も多く(90%)、わが国では小児特発性ネフローゼ症候群は、年間1000人ほど新規に発症していて、小児10万人当たり6.5人の頻度です。2:1の割合で男子に多いと言われますが思春期頃になると男女差は目立たなくなります。1-3歳での発症が最多です。
特発性ネフローゼ症候群は腎臓の組織の所見により「微小変化型」がだいたい85-90%と大半を閉めます。それ以外には「巣状分節性糸球体硬化症」、「メサンギウム増殖性糸球体腎炎」といった型もあります。組織の種類によって治療の効果が異なることがあり、初期治療の効果がなかった場合はどの組織型であるかは重要となります。
蛋白尿が出ていないときは、症状は特にありません。蛋白尿が持続し、血液中の蛋白質の濃度が一定の濃度を下回った時にむくみが生じます。血液中の蛋白質は水分を血管内に保つ役割(浸透圧といいます)があるので、血管内の蛋白質が少なくなると、水分が血管から体の組織に漏れ出てむくみが生じます。
特発性ネフローゼ症候群では、むくみ以外にも、様々な部位にむくみに関連した症状が出現します。
特発性ネフローゼ症候群では、水分が血管から体の組織に漏れ出ることで胸やお腹に水が溜まり、呼吸が苦しくなることがあります。また、こうした胸水、腹水の状態でさらに消化管のむくみで腸の動きが悪くなると、吐き気、腹痛、下痢、食欲低下などが起こることがあります。
特発性ネフローゼ症候群では、水分が血管から体の組織に漏れるので、血管内の水分量が減ります。すると、腎臓に送られる血流量が減少し、その血液から生成される尿量が低下します。肝臓が蛋白質を生成する時に脂肪も一緒に作られてしまい、高脂血症になることがあります。
また、血管の水分も少なくなることに加え、血液が固まりやすい状況になり、腎臓の血管や足の血管、肺の血管などに血栓を作ることがあります。血圧が変動し、血圧の上昇または低下することもあります。
特発性ネフローゼ症候群では、体の中にある抗体が尿に漏れてしまい減ってしまうため、感染に対して弱くなってしまいます。また、治療としてステロイドや免疫抑制薬を内服することで、さらに感染しやすくなったり、感染が重症化することもあります。特に重症なのは、溜まった腹水に感染を起こすことで発症する「細菌性腹膜炎」という感染症です。細菌性腹膜炎では高熱や腹痛を起こすことがあり、重症になることがありますので注意が必要です。