特発性ネフローゼ症候群の治療
初診時・再発時ともに、第一選択薬はステロイド薬です。ステロイド薬により、蛋白尿が消失すれば、ステロイド薬を一定期間使用し、その後ステロイド薬を終了します。2005年に作成された日本小児腎臓病学会による小児特発性ネフローゼ症候群薬物治療ガイドラインによれば、初診時には連日内服を4週間、その後確実内服を4週間の合計8週間とされています。
食事に関しては、蛋白尿が陽性の間は減塩食にしますが、一般的に水分の制限は必要ないとされています。水分制限は脱水や血栓症の危険を増加させるためです。また、蛋白尿が出ている時期も高血圧などを認めなければ、原則的に過度の安静は不要です。再発時も蛋白尿やむくみの程度によりますが、主治医と相談して通園・通学、運動が可能なことが多いです。また、蛋白尿が消えている時期においては、塩分を含む一切の食事制限や運動制限は必要ありません。
80~90%のお子さんは、ステロイド薬により、1週間程度で蛋白尿の陰性化(寛解といいます)を認めます。ステロイド薬で4週間以内に寛解する場合、「ステロイド感受性ネフローゼ症候群」と呼びます。ステロイド感受性ネフローゼ症候群の約30%の症例は、初回の治療のみでその後は再発はありません。治療終了後2年間再発しない場合には、その後再発するか可能性は低いと考えられます。約10~20%のお子さんは初回のステロイド治療終了数か月後に再発しますが、その後ステロイド感受性ネフローゼ症候群の再発を3~4回繰り返して治癒に至ることが多いとされています。残りの約50~60%のお子さんはステロイドの減量や中止に伴って頻回に再発を繰り返す「頻回再発型ネフローゼ症候群」の経過をとります。またステロイド減量中やステロイド中止後14日以内に再発を2回続けて起こしたものを「ステロイド依存性ネフローゼ症候群」と呼びます。
頻回再発型やステロイド依存性のお子さんにおいては、再発のたびにステロイド薬が必要になるために、ステロイド薬の副作用(低身長、緑内障、肥満、高血圧、糖尿病、白内障、骨粗しょう症など)の問題が出てきます。そのため小児ネフローゼ症候群に対するステロイドの長期投与は可能な限り避けるべきであり、代替薬として免疫抑制薬と呼ばれる薬の導入が必要となります。
特発性ネフローゼ症候群のお子さんの長期的経過
一般的にお子さんの年齢が高くなるにつれ、再発の頻度は減少し、再発時の重症度も改善します。長期的には70~80%程度の患者さんは成人になるまでに完治します。治療なしで3年再発がなければ約80%の患者さんはその後再発せず、5年間再発がなければ約90%の患者さんはその後再発がなく完治するといわれています。しかし、頻回再発型やステロイド依存性のお子さんの場合は、成人への移行の頻度が高くなります。
再発を避ける完全な方法はありませんが、風邪などが再発のきっかけになることが多いため、手洗いやうがい等は積極的に行いましょう。風邪をひいたら早めに対応しましょう。しかし、風邪で再発が繰り返されるようであれば、治療の強化が必要かもしれません。再発が多かったお子さんでも、適切に免疫抑制薬を使用すれば、多くの場合再発が減り、同時に風邪などで再発することも減少します。
何回再発してもその都度蛋白尿がきちんと陰性になるのであれば、ほとんどの患者さんで透析や腎移植が必要な末期腎不全になることはありません。蛋白尿が陰性の時は、普通のお子さんと同様の生活が可能です。
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腎臓専門医
総合内科専門医 木村 仁志