脂質異常症治療の基本は「食事療法」や「運動療法」による生活改善を図ることで、これ以上動脈硬化を進行させないようにすることが重要です。
さらに続発性脂質異常症の治療では、脂質異常を引き起こす原因となっている疾患の治療を行います。なお、原因疾患の治療が困難であったり、治療後も脂質異常症が残ったりするケースでは、リスクを評価しつつ治療を行います。
体が必要とするエネルギー量よりも、多く摂取しないようにすることが大切です。
適正体重を維持するようにしましょう。
適正なエネルギー摂取量の目安は、患者さんの性別や身体活動レベルのほか、肥満度・血糖コントロール・合併症なども考慮して決定します。
なお、厚生労働省による日本人の食事摂取基準(2020年版)の中で、推定エネルギー必要量は次の通り算出されています。
成人(18歳以上)の推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル
また、体重当たりの総エネルギー必要量は、成人の場合「約30〜40 kcal/kg 体重/日」としています。
肥満を解消するためには、一日エネルギー摂取量(kcal)=標準体重(kg)×25-30(kcal)が理想ですが、まずは「一日250kcal」を減らすところから始めましょう。
適正なエネルギー制限は、中性脂肪を低下させます。
(参考)推定エネルギー必要量|厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020 年版)P.84
栄養バランスを考えて、規則正しい食生活を送るようにする心がけが大切です。
できるだけ肉類よりも魚類・大豆類などを多く摂ったり、洋食よりも和食を選んだりすると良いでしょう。1食あたりの脂質摂取量を抑えることにより、食後高脂血症の改善が期待できます。
【目標】総摂取エネルギーの15-20%程度
飽和脂肪酸やコレステロールの摂取が増えないように、動物性肉類ばかりではなく魚や大豆製品の摂取を増やす。
【目標】総摂取エネルギーの20-25%程度
肉類や即席めん・鶏皮・生クリーム・バター・菓子パン・ケーキ類など動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸食品は、LDLコレステロールが上昇するため取りすぎないよう注意する。
代わりに、マグロ・イワシ・サンマなど青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)や、ゴマ油・グレープシードオイル・アマニオイルなどの一部の植物油などに多く含まれる「n-3系多価不飽和脂肪酸」の摂取を増やしましょう。中性脂肪の合成が抑えられます。
【目標】総摂取エネルギーの50-60%程度
炭水化物はエネルギー源となるご飯・パン・麺類のことです。
炭水化物を制限すると、中性脂肪の合成が抑えられます。
-ご飯茶碗に軽く1杯(100g)=約160kcal
-ご飯茶碗普通盛り1杯(150g)=約250kcal
-ご飯茶碗多め1杯(180g)=約290lkcal
【目標】1日300mg以下
鶏レバー・たらこ・マヨネーズ・卵・バターなどを使った料理や菓子類の摂取を減らしましょう。
摂取量を25g/日以下にしましょう。アルコールを摂取すると食欲が増して摂取カロリーが増えます。中性脂肪が高い方は特に注意が必要です。
【目標】1日25g以上取るように心がけましょう。
緑黄色野菜や淡色野菜、海藻、きのこ類など食物繊維を多く摂取すると、腸管での脂肪吸収を抑えます。特に水溶性食物繊維(ペクチン、マンナン、豆類)の摂取はLDLコレステロールの低下作用があります。
抗酸化物質であるビタミンC、ビタミンE、B6、B12、葉酸、β-カロテンを積極的に摂取しましょう。野菜や果物などの抗酸化食品はLDLコレステロールの酸化を抑えて、動脈硬化予防になります。また、赤ワインに含まれるポリフェノール、茶に含まれるカテキン、大豆・大豆製品に含まれるイソフラボンなどにも同様の効果があります。
中性脂肪が高い方は、糖分入りの飲み物・クッキー・アイスクリーム・お煎餅など糖質が多い食品を控えるようにしましょう。
2 運動療法
運動不足は低HDLコレステロール血症、高中性脂肪血症、内臓脂肪型肥満、耐糖能異常・糖尿病、高血圧、血管内皮機能障害などを引き起こし、メタボリックシンドロームの主な原因となります。さらに、持久的体力の低下している方・日常の身体活動量が低い方ほど、がんや動脈硬化性疾患などの死亡率が高いと報告 *2 されています。
*2 (参考)多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果|国立研究開発法人 国立がん研究センター
運動療法には血中脂質値に好影響を与え、中性脂肪を低下させ、HDLコレステロール
を上昇させる働きがあります。
また、免疫力・骨密度を高めるだけでなく、うつや脳機能の改善が期待できることで日常生活動作能力(ADL)、社会的活動、生活満足度などのQOL(生活の質)も向上します。
日本動脈硬化学会による「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版」によると、持久力を高め、肥満予防・治療効果を得るためには、楽~ややきつく感じる中強度(息が弾むくらい) *3 の運動が良いとされています。中強度の運動は運動中の血圧上昇が軽度であり、血中の乳酸の蓄積もほとんど認められません。
*3 中強度の運動:心拍数(脈拍/分)=138-(年齢/2)程度
1日30分程度・週3回以上(合計180分以上)を目標にウォーキングや自転車、スイミングなどの有酸素運動を行いましょう。1回10分など短時間の運動を1日数回に分けて行うことや、「できるだけ階段を使う」「こまめに歩く(動く)」など日常生活の中に軽い運動を取り入れてみるのもおすすめです。
ただし、ゴルフなど競技性の高い運動は、緊張・興奮しやすく血圧が上がることがあるので注意が必要です。
※持病によっては運動が勧められないケースもあります。ご相談ください。
(参考)脂質異常症を改善するための運動|厚生労働省 e-ヘルスネット
なお、運動開始時および3か月に1回程度、循環器系に重点をおいたメディカルチェックを実施します。必要に応じて、運動療法開始前にトレッドミルテスト(運動しながらの心電図検査)を実施することがあります。
太ももやお尻の筋肉をダイナミックに動かす運動。早歩き・水中歩行・サイクリング・ラジオ体操・ベンチステップ・歩くぐらいの速さで走る(スロージョギング)・水泳・社交ダンスなど。
【中強度のベンチステップ】
台の高さ20cmで下記の昇降回数を目安に行います。ただし、心拍数や自覚症状で昇降回数を調整します。
-超低体力者や後期高齢者:10回/分(平地での通常歩行相当)
15回/分(高さ10cmで行う場合)
-低体力者や前期高齢者 :15回/分(やや早歩きに相当)
-中年 :20回/分(早歩きに相当)
ウェートトレーニング・腕立て伏せ・ベンチステップなど。
有酸素運動と併用可ですが、やりすぎると過度の血圧上昇を招く恐れがあるため、息を止めないよう普通に呼吸をしながら行うようにしましょう。
発熱や不眠などの体調不良、平常時の心拍数より20拍/分以上高い場合などは、運動を行わないよう注意します。
食前または食後2時間経ってから、運動するようにしましょう。
普段、あまり動かないことが多い方は、運動をすることによる心事故の発生リスクが高い状況にあります。いきなり運動を開始するのではなく、まずは掃除・洗車・子供と遊ぶ・自転車で買い物に行くなど、徐々に身体活動量を上げるようにしましょう。
猛暑や厳冬期は、外での運動を控えましょう。そんな時は、室内でできるベンチステップ運動がおすすめです。また、気温の低い季節は服装に気を付け、準備運動は室内で行うとよいでしょう。
暑い日は水分補給を忘れずに!
高血圧や狭心症など持病がある方が急に激しい運動を行うと、命に係わることがあるので注意しましょう。
食事療法・運動療法など生活習慣の改善だけでは、LDLコレステロール値や中性脂肪値が管理目標値に達しない場合や、狭心症・心筋梗塞など冠動脈疾患の持病をお持ちの方など動脈硬化による合併症リスクが高いときは、薬物療法も併用します。
使われる薬には、「コレステロールを下げる薬」「「コレステロール値と中性脂肪値を下げる薬剤」「中性脂肪値を下げる薬剤」の3種類があります。
患者さんの脂質異常症の病態(LDLコレステロール値が高い・中性脂肪値が高いなど)を総合的に判断して、組み合わせて使用します。
-HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)……第一選択薬
肝臓でのコレステロール合成を抑制します。
メバロチン®️、プラバスタチン®️、シンバスタチン®️、アトルバスタチン®️、ピタバスタチン®️、クレストール®️など
※高齢者や腎臓機能の低下がある方は、ふくらはぎの筋肉痛に要注意です。腹痛など胃腸障害が起こることもあります。
-陰イオン交換樹脂製剤
コレステロールの体外排出を促進させます。
コレバイン®️など
※ひどい腹痛や便秘に注意しましょう。
-プロブコール
肝臓へのコレステロールの取り込みが促進されます。
シンレスタール®️、ロレルコ®️、クラフェデン®️、フッコラート®️、プロスエード®️、プロブコール®️、ライドラース®️、ワニール®️など
※動悸・強いめまいを感じたら、すみやかに医師にご相談ください。
-小腸コレステロール輸送体阻害剤
小腸でコレステロール吸収を阻害します。
ゼチーア®️など
※便秘、筋肉が障害を受ける「横紋筋融解症」に注意が必要。
-ニコチン酸類
肝臓でのコレステロール・中性脂肪の合成を抑制します。
ユベラ®️、トコフェロールニコチン酸エステル®️、ニコ®️、バナールN®️など
※ビタミンEの薬ですが、中性脂肪を下げる作用のほか、血管を広げ、血流をよくする働きもあります。胃腸障害や顔の赤みなどの副作用が現れることもある。
-フィブラート系薬剤
中性脂肪の合成を阻害します。HDL(善玉)コレステロールを増やして、LDL(悪玉)コレステロールを減らす働きもあります。
ベザフィブラート®️、リピディル®️など
※スタチン系製剤や抗血栓薬(ワーファリン)、糖尿病薬との併用には注意が必要です。これらの薬を服用している場合には、必ず医師に申告してください。
-EPA製剤
青魚に含まれる脂肪酸のひとつEPAから作られ、脂質の合成を抑制・血液を固まりにくくする作用があります。
エパデールS900®️、ロトリガ®️など
※血液凝固薬(ワーファリン)などを服用中の方は併用すると出血しやすくなるので、注意が必要です。
自己判断によって薬を中止したり、減量したりすることは危険です。
お薬の効き方や副作用など、少しでも気になる点があるときには、必ず医師またはスタッフまでご相談ください。