動脈硬化とは、文字通り「動脈が硬くなる」ことです。動脈が硬くなると、その特性であるしなやかさが失われるため、血液をうまく送り出せず、心臓に負担をかけてしまいます。
動脈が硬くなると血管の内側がもろくなって粥腫(じゅくしゅ)とよばれる油のかたまりのようなものができてしまいます。
粥腫(じゅくしゅ)はアテロームやプラークとも呼ばれ、血液中に存在する悪玉コレステロール(LDLコレステロール)や白血球の一種であり異物を認識して貪食するマクロファージが沈着したものです。
上の図1-1は冠動脈という心臓自身に血液を送る重要な血管の実際の正常な断面写真です。内腔がきれいに空いているのが分かります。
上の図1-2は心臓の冠動脈の動脈硬化が進み、血管が狭窄してしまう狭心症の患者さんの、左は血管造影(血管を写しだす検査)の所見です。緑色の矢印の部分は比較的内腔は保たれており、実際右側の断面の写真でも、軽度の粥腫(プラーク)形成は認めますが、内腔は比較的保たれています。しかし、黒色の矢印の部分では造影検査でも高度な狭窄を認め、断面写真でも全周性に著明なプラーク形成が認められ、内腔は高度に狭窄していることが分かります。
図1-3のような脂質に富むプラークは、プラーク破裂を起こしやすくなります。
一度破裂してしまうと、血栓形成による内腔閉塞を引き起こし、血管が閉塞してしまいます。
心臓の血管で起こると心筋梗塞という状態になります。
図1-4の左の写真の赤色の矢印の部分は、心臓の冠動脈造影写真で、冠動脈が閉塞してその先に血液が流れていないことを示しています。右の写真は赤色の矢印の閉塞部分の実際の断面写真です。脂質に富むプラークに破裂(黒色の矢印の部分)が生じ、内腔は血栓形成により、完全に閉塞しています。
このように動脈硬化が進むと全身でこのようなことが起こる可能性があります。
脳の血管で起これば脳梗塞、心臓の血管で起これば心筋梗塞、腎臓の血管で起これば腎硬化症、下肢の血管で起これば閉塞性動脈硬化症を引き起こします。
動脈硬化によって引き起こされる虚血症状(血流が悪くなり起こる症状)の有無を確認することが大切です。狭心症の患者さんにおける労作時の胸痛(狭心症発作)や閉塞性動脈硬化症(下肢の血管の動脈硬化)の患者さんで起こる一定距離の歩行時の下肢筋痛(間欠性跛行といいます)は特徴的です。また、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患の家族歴があるかどうかも重要です。
まず重要なことは動脈拍動の有無や減弱を確認することです。特に太ももの付け根・膝の裏・足の甲などの部位で脈が触れるかどうかを確認することは誰でも簡単にでき、とても大切です。上下肢の血圧比(ABI:Ankle Brachial Index)は下肢の動脈硬化の評価に有用です。なぜなら一般的にヒトは上肢よりも下肢のほうが距離がありより血液を遠くに運ばないといけないため、上肢よりも下肢のほうが血圧は1-1.2倍ほど高めですが、下肢の血圧のほうが低い時は動脈硬化が進んでいるのではと疑うことができます。また皮膚温の評価も重要です。
心臓からの血圧の拍出により血管の壁が振動しその波形から動脈の硬化度を評価します。
頸動脈は体表からも浅く、ある程度の径もあるため、動脈硬化の評価に適しています。動脈硬化の指標としてプラークの存在と1.1mm以上の中・内膜複合体厚(IMT:Intima-Media Thickness)がよく用いられます。
超音波検査以外でもCT検査、MRI・MRA検査などでも評価は可能です。
当院でもABI検査、CAVI検査、頸動脈超音波検査を行って動脈硬化の評価を行っています。
動脈硬化の進行に関与する因子として、生活習慣病と呼ばれる脂質異常症・高血圧・糖尿病・慢性腎臓病(CKD)・喫煙などがあげられます。
動脈硬化の予防にはこれらを予防するために生活習慣の改善が基本です。
薬物療法開始後も生活習慣の改善は継続していくことが大切です。